公益財団法人こころのバリアフリー研究会はこの度2024年10月27日投開票の衆議院議員選挙に向け、「精神障害のある人の権利擁護に関する各政党の政策・考え方についての公開質問状」を、各政党宛に郵送にて送付いたしました。
この記事では、各政党からの回答をもとに、以下の5つの重要課題に対する各政党の見解をご紹介いたします。
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目次
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精神科医療機関における身体的拘束は、精神保健福祉法第37条第1項の規定に基づき厚生労働大臣が定める告示により、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3つの要件を満たす場合に例外的に実施されるものとされています。一方で、身体的拘束により死亡事故も発生しています。たとえば、2017年にニュージーランド人のケリー・サベジさんが神奈川県内の精神科病院で亡くなった事故が起き、国際的な議論になりました。精神科病院における身体的拘束は、2017年以降、わずかな減少を示していますが、高止まりの状況が続いています。2022年においては10,903人もの患者が身体的拘束をされています。障害者権利条約の総括所見(2022)においては、パラグラフ33では精神科病院における障害者の隔離、身体的拘束、強制的な治療への懸念が示されています。

引用:山之内 芳雄ほか. 精神病床での身体的拘束の法的・調査における視点の整理. 精神神経学雑誌 = Psychiatria et neurologia Japonica. 122(12):2020,p.930-937.
身体的拘束は、死亡事故に至らないまでも精神障害のある人に人としての尊厳を奪われたと感じさせるほどの大きな精神的苦痛を与えることやそのトラウマ体験のために精神科医療に不信を抱き、その後の治療を忌避して症状悪化を繰り返す人も少なくありません。 また、日本では、他の国と比べて桁違いに多くの身体的拘束が施行されていることから、見直しの機運が高まっており、身体拘束最小化委員会の設置など漸進的な取り組みは行われているところですが、大きな改善には至っていません。

▲身体的拘束の例(病棟内研修時に行われたもので被写体は医療従事者スタッフ)
精神科医療機関における身体的拘束を減らすための施策、制度、予算化に関する御党の考えを別紙にご記載ください。
| 身体的拘束を減らすべきか | 身体的拘束の廃止または最小化に向けた具体的な施策 | |
|---|---|---|
| 日本維新の会 | 原則行うべきではない | 必要な条件整備を国が計画・予算化すべき |
| 公明党 | 最小化を目指すべき | 必要な見直しを検討する |
| 社会民主党 | 抜本的な法改正が必要 | 法律の抜本改正が必要 |
| 立憲民主党 | 拘束の削減を進める | 患者の尊厳を守るための施策を進める |
| れいわ新選組 | 憲法違反であり、極限まで減らすべき | 人員配置を強化し、拘束を減らす施策を実施すべき |
| 日本共産党 | 身体拘束を廃止すべき | 配置基準を見直し、診療報酬を改善すべき |
| 国民民主党 | 拘束の削減を進める | 当事者が政策決定に参加できるようにする |
| 自由民主党 | 最小化に向けた取り組みを推進する | 法の考え方に沿って取り組みを進める |
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律は、いくつかの入院形態を定めていますが、本人の同意に基づく任意入院、本人ではなく家族の同意に基づき、精神保健指定医1名の判断で成立する非自発的入院(医療保護入院)が、新規入院件数の50パーセントを越える多くの割合を占めています。精神科病院の入院数について、本人の同意に基づく任意入院の件数は減っているにも関わらず、医療保護入院の件数は増加していて、2020年には、医療保護入院が入院件数の中で最も多いという状況にあります。
精神保健指定医が医療保護入院の必要性を示す書類では、医療保護入院以外の代替となる方法(例:任意入院、外来での支援の継続など)が可能かについて記載する必要がありません。

引用:NPO法人大阪精神医療人権センター「数字でみる日本の精神医療の現状」(2021)
****精神障害のある人に人とっての望まない入院を通じた精神科医療機関における経験は、その後の治療を忌避しがちとなり、医療アクセスの機会を損ない、症状悪化を繰り返す人も少なくありません。
また、家族の同意による医療保護入院は、本人の人権を制限する事態への責任を家族に負わせ、精神障害のある人本人と家族の関係に緊張を生じさせます。医療保護入院をきっかけにして家族内の関係に深刻な亀裂を招く事態も起きています。